お笑いと、酒日記

大好きなお笑いと居酒屋について書いてます

【映画感想】土を喰らう十二か月

映画「土を喰らう十二か月」を見てきた。
11月中旬から始まったと思うが、やっている映画館が少なく、また、回数も少ない。

行くタイミングを逃している内に回数が更に減ってきた。
急いで近場の映画館へ赴いた。


上映


時間ギリギリで館内へ入ると、
中はおじいちゃんおばあちゃんばっか!
ヤバい、逆に私のほうが浮いている!こんな映画館もあるのか!

内容が精進料理の話だからか、それとも沢田研二のファンがこのあたりの世代なのか。
沢田研二の人気は根強いなぁ。

おばあちゃんに足をどけてもらって自分の席へ着く。

<以下ネタバレあり>


全編を通して、景色と料理が本当にきれい。
これを撮影前の一年間、スタッフが一生懸命畑づくりをしたり、リフォームをしたりしたってもんだから凄い力の入れようだ。
犬のさんしょも、近くの家の実際の飼い犬だったり。
撮影の裏話をたくさん聞いてみたい。

沢田研二はでっぷりしたおじさんになってしまったけど、やっぱり演技が自然で良いね。
松たか子が、「おいしー」って食べてるだけの編集者で、なんかいまいち。
ツトムが苦労して作った料理をもらえるだけもらって、食べてるだけやん。
食べてる所作もちょっとぶりっ子っぽいのでなんか気になる。違和感。

料理もそうだが、洗っている音、焼いている音、自然の流れ、あとお皿や壺が全部きれいで、実際生活していたらこんなにツヤツヤ綺麗に保てないだろ~なんて思ってしまうが、全部美しいので見惚れてしまう。
前半の数十分は美しさだけで集中してみてしまう。

ツトムはなにからなにまで自分で作る、なければゼロから作る。
小説を書いている時間があるのだろうか?
風呂を沸かす時間だってあるんだろうし。

そもそも昔の人の家事ってこんなに大変だったんだろうか?
そうなると女性は専業主婦をしなければ成り立たないのも間違いではない。
ずっと体を動かしっぱなしだから、体力はつくんだろうけど、一度体を壊したり、不自由になったら、もうこの生活は成り立たなくなるよね?
なんて心配事を考えてしまう。

この家は電気も一切通ってないのだろうか?
ガスと火だけ?
お米はどうして手に入れているのだろうか?
どこかに買い出しに行ったり、訪問販売はあるのだろうか?
自分の身に置き換えて考えてしまう。
こんな生活は憧れるが、マメに動けないし、電気がない時点で難しい。
相当覚悟するか、慣れっこの人じゃないと絶対できない。
一度崩れたらどうしようもできない、綱渡りのような恐怖を感じる。


葬式

明るめの前半が終わって、中編。
義母が急死する。
この義母さん、なかなか良いキャラであった。
静かな映画の中で、突如笑いをぶち込んできたおばあさんであった。

葬式をしようとするが、
葬式も全部手作り。
大工の師匠がどでかい棺桶を作り、写真屋がどでかい遺影写真を現像する。

鯉八兄さんどこに出てくるのかな~って思っていたら、この写真屋さんだったのね。
全然気が付かなかった。
気の弱い旦那も尾美としのりだった。
あの義夫婦も嫌な人たちだな~。

信州の葬式はあんな風なのか。
私が見たことない葬式の仕方をしていて、とても興味深かった。
そして手作りの葬式ってこうなるんだな~と。
葬式だが、明るい雰囲気で映されていて、おもしろかった。
後半の「死」との落差も際立つように、わざとしている気がする。



ツトムが倒れる


自分が死んだとき用の骨壺を作っている最中に心筋梗塞で倒れる。
たまたま通りかかった恋人の真知子(松たか子)が発見し、一命を留める。

それからというもの、ツトムは「なぜ死が怖いのか」を考え始める。
倒れる前、真知子に「一緒に住もう」といったのにも拘わらず、
心筋梗塞から生還した後は、真知子からの覚悟の返事にもNOを言い、真知子に去られてしまう。

このあとの真知子の変わり様が凄まじかった。
久しぶりに会った真知子は、眼鏡もしていないし、映えるような赤い服。
ツトムと付き合っていた頃とは真逆の、都会仕様のファッションに変化。
ツトムが変わらずご機嫌に歌っていても、微笑みを絶やさないまま決別の言葉を言う。

この表情がすごく上手かった。
女って、別れる時、こういう表情するよね。
情があるから、一応は優しく接するけど、でももうあなたとは何の関係もない。
恋人だったから優しかったけど、恋人じゃない今は、もう一指も触れないでほしい、というような、冷たい目をする。

そりゃあツトムが遠ざけたんだから自業自得ではあるよね。
そして真知子の気持ちも、わかりすぎるほどわかるけど、
客観的にみると、女ってここまで冷淡にできるんだなぁと怖さと悲しみを感じた。
でも真知子も散々悩んで泣いた結果ああなったんだろうなぁと思う。

松たか子ってやっぱり演技が上手なんだなぁと感心したのであった。


また冬


そうしてまた一人になり、冬が来る。
さんしょと共にご飯を食すところで終わり。

良い声のEDだなぁと聴いていたら、沢田研二が歌っていた。
沢田研二、あんな太ってても歌は艶っぽいな~ 人気あるのもわかるわ~


そもそも土井善晴が好きだった関係で、この映画も見ようと思ったので
「ただ料理と季節を味わう日常映画でしょう?」なんて思っていた。
だからこんなにストーリーに起伏があり、考えさせられる映画だとは思っていなくて以外だし、予想以上に楽しめた。
映画が終わっても、またツトムに会いたい、と思うし、今はどんな暮らしをしているのかと思いを馳せてしまう。

パンフレットも買ったし、中江裕司監督と土井善晴が対談している本も買った。
これから原作も買いそろえていきたいし、DVDも出たら購入したい。
そのぐらい魅力のある映画だった。